2100年 夏

日本の農業の将来について妄想を膨らませてみました

第6回 繁茂君の田舎生活

 人口が減少すると前の世代が所有していた不動産がより少ない人数に引き継がれる。つまり後の世代の人たちには必要・不必要に関わらず不動産が集まってきてしまうのだ。繁茂君も田舎に小さな土地を相続している。市街化調整区域なので家は建てられなかったのが、ようやく規制が外れた。と言うよりも規制そのものが無くなってしまった。そこで小さな別荘を建てることにした。彼もご先祖の遺伝子を引き継いでいてご先祖と嗜好が似ていたようだ。

 しかし、市街地から離れているので電気、ガス、上下水道を引くだけでとてつもない費用がかかる。そこでこれらを引かずエネルギーと水の自給自足を目指すことにした。

 電気はマイクロパワープラントでなんとかする。この頃は太陽光、風力、水力を使う装置が市販されていた。2100年には蓄電池の性能も上がっている。それらを総合して不便ながらエネルギーは充足できる。煮炊きには電力だけでは不足なのでLPG(プロパン)のボンベを時々買ってこなければならない。もちろん山の枯れ枝も燃料になる。「爺さんは山へ芝刈に」せっせと行くので家の周辺の山林は里山に近くなってきた。問題は水だ。結局 井戸水が手に入らないところでは快適な生活はできない。このように小さな家でも初期費用はかなりかかる。しかし、その後の電気代、水道代はかからない。

 課題は生活へのIn-putだけではなくOut-putにもある。下水とゴミである。生活排水は浄化槽で処理して流す。設置費用を含まない装置だけの価格は2023年で100万円程度らしい。

 ゴミの処理は手間がかかる。ゴミ回収車が定期的に来てくれることはない。燃えるごみは自分で燃やす。ダイオキシン問題があるので灰を拡散することはしない。生ごみは地面に戻す。幸い埋める場所はたくさんある。不燃ゴミ、粗大ごみは処理場に持って行くか、回収に来てもらうのだが有料になる。こんな状態なので大量購入・大量消費の生活はやる気にならず、必然的にSDGsになる。

 年に10~20日しか滞在しないので、蓄電や貯水ができてゴミも排水もそれほどでない。なんとか快適に住むことができる。ただし、滞在時間のかなりの部分はマイクロパワープラントや上下水設備の整備や山への芝刈に取られる。こういう雑務を嫌がる人は田舎には住めない。

 繁茂君の祖先が樹々草花を植えた土地は森林化してしまっている。いろいろな樹種があるので自然林ではないことは一目でわかる。樹々が繁茂して日光を遮断しているので雑草はそれほど生えず草刈りはほとんど不要である。繁茂君はこの土地の樹々を切り倒すのは惜しいので、わざわざ隣地を購入して家を建てた。隣地の地主はこの場所に全く興味が無かったので安価で購入できた。

 下の写真は繁茂君のご先祖が樹々を植えた場所の左は2018年5月、右は2023年8月の状況。これが80年後にはどうなるかと言うお話です。(木にも寿命があるので、これらは枯れて他の樹種に交代しているかもしれません。)

 

 繁茂君は時々椅子を持ち出してこの奇妙な雑木林でじっとしている。高原なのでやぶ蚊は滅多にいない。ご先祖は花と実をつける樹を主に植えたので小鳥が頻繁に来てうるさいほどだ。花の季節には蜂と蝶が来る。今日はこの土地のヌシであるアオダイショウが出現してゆっくり足元を這って行った。

 この樹々を植えたご先祖はこれでご満足なのだろうか。