2100年 夏

日本の農業の将来について妄想を膨らませてみました

第2回 カイダ式電子農業 AIロボットを使った稲作

  繁茂君は駅から農場までは電気自動車を使った。電気自動車の弱点は走行距離と充電にかかる時間である。2100年代には相当改良されたもののガソリン車やハイブリッド車には及ばない。そこで長距離移動には列車を使い、現地近くでレンタカーを借りるのが一般的な旅行のスタイルになっていた。

緑島の経営

 大部分の緑島(農場のこと)は中国人などアジア系の外国人が管理している。国防上の理由で制定された法律により 彼らは土地を所有することはできないが、事実上の経営は彼らに任されていた。この頃は労働力不足でいろいろな産業で外国人が働いていた。

 注:2020年代の時点でも外国人労働者無しでは成り立たない産業があります。そこでは留学生を使っています。このようなゴマカシは外国人に対する差別に他ならず恥ずかしいことだと思います。この背景には外国人は何としても受け入れるべきではないとする勢力が、しかも権力者側に一定数いるので、彼らをゴマカス必要があるのです。

 繁茂君が向かったのは稲作に特化した農場である。この農場では500haの水田を3人のベトナム人が管理している。彼らの風貌は農民というよりも電子技術者だ。

コシヒカリの移植栽培一辺倒からの脱却

 稲は湿地帯の植物ではあるけれど水草ではないので水没すると枯れてしまう。従って水田の水の深さを特に田植え直後は1~3cmに保つ必要がある。このように精度の高い水平な地面をトラクターを運転して作らなければならない。日本のように平野が少なく、平野にも傾斜がある地域では高い技術を必要とする。これまでは熟練の技で行っていた耕起作業を、この時代はAIを搭載した農業機械が行っている。それでもたった3人で500haを管理するのは機械だけではなく農業技術的にも最先端の方法を用いていた。作業を集中させずに農繁期を拡げて農閑期を少なくする工夫である。そのポイントは

①早生と晩生の品種を使うこと、

②直播栽培と移植栽培の両方を使うことであった。

 コシヒカリだけを移植栽培するだけのやり方では作業時期が集中してしまい規模拡大に限界がある。今は夏なので晩生の田植が済んでやっと長い農繁期が終わった。この短い農閑期を利用して大型機械の修繕とAIロボット カイダのメンテナンスを行わなければならない。

 大規模稲作とは美田をあきらめる事

 規模拡大した農地は、かっての1ha単位の農地とは、見た目が大きく違っている。昔の政治家は日本の農業を守らねばならぬ理由として日本らしい風景の保存を挙げている。それは作物が美しく整列して植えられていることが前提である。ところが大規模化し、生産性・収益性を重視すると見かけなどかまっていられなくなる。例えば農薬や肥料の処理に大型機械を使うとその機械は当然ながら作物を踏み潰しながら進むことになり、圃場の端でUターンすると端の部分は大きく潰される。また、直播栽培では稲の生育は移植栽培ほどそろわない。種の発芽に時間差があるからだ。従って直播栽培の水田は凸凹になる。要するにこの頃の水田は昔ほど美しくないのである。

 AIロボット カイダ登場 CAIDA Cordinated AI Droids for Agriculture

 繁茂君は駐車場に車を置き事務所まで歩いて行った。すると水田の稲をかき分けてカイダが数体現れてピーピーと警報を鳴らしながらついてきた。下の図はおなじみのR2D2

です。カイダもこんな感じの機械だと思って頂ければ。

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 カイダは CPUを複数持つ人工知能ロボットで CAIDA Cordinated AI Droids for Agriculture というのが正式名。原型はビルの警備用に作られたロボットである。防犯カメラだけではどうしても死角ができるので、小型ロボットを巡回させてビルを警備する。ロボットは乱数表に基づいてコースを決めるので動きは予測不可能。侵入者を見つけたら警報を鳴らしスタンガンで攻撃する。もちろんカイダはスタンガンは外してあるが侵入者を警戒する機能と警報装置は持っている。従って顧客に対しても警報を鳴らしながらついてきてしまうのだ。しかし、この頃は放棄された農地や住宅地で繁殖するイノシシやサルなどによる鳥獣害が病虫害などより深刻なので、この機能は役に立っていた。500haの耕地を電気柵で囲うよりもロボットで追い払う方が簡単で有効だった。

 除草はカイダが稲と雑草を見分けて引き抜く。病害虫もカイダが見分け局部的に農薬を吹き付けるか、被害を受けた稲を除去して病害虫が拡大しないようにする。当初はAIの学習に手間取り、雑草ではなく稲を引き抜いてしまうカイダが多数出た。この調整には2年以上かかった。人間でもイネと主要雑草のヒエを見分けるには熟練を要する。カイダは休憩時間が不要なので充電時間以外は1日中働き続ける。

 下の写真は左がヒエ(ノビエ)、右がイネである。このイネは移植(田植したもの)であり、ヒエは土壌表面の種子から発芽するので、生育ステージが明らかに異なり判別できる。しかし、直播栽培(育苗と田植を省略し水田に直接種もみを蒔く)だとイネとヒエが同時に発芽するので、この判別は非常に難しい。

雑草ヒエ(ノビエ) | 農業害虫や病害の防除・農薬情報|病害虫 ... 稲の苗[00556010324]の写真素材・イラスト素材|アマナイメージズ

 再生可能エネルギー=小型水力発電

 この地域は山からの雪解け水が豊富で農業用水には苦労しない。水路のところどころに水車小屋があり、そこが小型水力発電所になっていた。カイダたちの電源はそれだ。彼らは電池が切れかけると自動的に水車小屋に行って充電し、また作業に戻って行く。写真は栃木県今市の工業高校が試作した渓流を利用した発電装置。

機械なので休む必要がなく夜間でも働き続ける。最大の問題は年々増加する雷である。今日も雷警報が出た。カイダたちは作業を中断しガレージへ急ぐ。かって雷警報が出遅れて、カイダたちが雷に打たれたことがあった。

それ以来 カイダたちの行動がおかしいとベトナム人たちは言う。AIは非常に複雑だし、学習機能や修復機能があって修繕はとても難しい。特に作業に支障はないのでそのままにしてある。雷雨が去って日が射してきた。するとカイダたちがあぜ道に並んで夕日に向かって整列した。これがベトナム人たちが言う変な行動だった。カイダたちは日が沈むまでじっと動かなかった。AIが夕べの祈りを捧げているようだった。

(この写真はインターネットより採取)ロボットが夕日の前の棚に座っています。 | プレミアム写真

そして、彼らは薄闇の中 作業のために水田の中へ散って行った。

 農業資材業界の変化

 繁茂君の仕事は農薬・肥料など農業資材の販売である。30年前に比べると市場規模は大幅に縮小している。農業自体の規模の縮小が最大の理由だが、カイダが言わば手作業で草や虫を取ってしまうので農薬の使用が最小限になったことも大きい。今日の商談は追肥・穂肥の供給である。これにしてもカイダが稲の根元に正確に落とすので最小限の量で足りるようになっていた。なお、元肥や農薬の基幹防除(基本的に必要な処理。いもち病やニカメイチュウやウンカの防除は全面的に農薬を散布して病害虫密度を下げないとカイダによる局部処理だけでは追いつかない)は大型機械を使う。

 農薬はほとんどがジェネリックになっていて価格はかっての半額くらいになっていた。AIが防除計画を作るので繁茂君たち営業マンの仕事はAIに入力するデータの供給だった。昔との大きな違いは混合剤が無くなったことである。昔は農家が使いやすいようにメーカーが農薬成分のカクテル製剤を作っていた。農家一人一人が農薬成分の特徴を把握するのは困難だったからだ。水稲除草剤がその代表であり、膨大な数の製品があるもののその成分は似たりよったりだった。今は成分それぞれを水に懸濁しやすいような製剤にして、それをAIが混合して使用するようになっていた。

 下の写真は絵具の小瓶でインターネットから採取したもの。将来の除草は雑草の種類に応じて成分をカクテルして使うようになる。業界用語ですが混合剤が消滅し、単剤だけになるとの空想です。

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 製品数が少なくなり、それぞれの製品の製造規模は大きくなるので製造コストは下がる。従って、メーカーは売り上げが大幅に減少したが、利益はギリギリ確保できていた。ただし、メーカーの数は大きく減少した。

 

 農場を去る時 後ろを振り向くと カイダたちがつける小さなライトが広い水田のあちこちで動いていた。最近になって増えてきたホタルも見える。今晩は新月だった。上空から見れば緑島は光の渦に見えただろう。

(この写真は愛知県設楽町の水田。ネットから採取)

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