2100年 夏

日本の農業の将来について妄想を膨らませてみました

第5回 緑の島の未来

  日本の人口の推移

 日本の人口が1億人を越えたのはそんなに昔のことではない。これを見ると江戸時代に人口は3倍近く増加し、明治・大正・昭和にかけてさらに2倍になっている。奈良時代や江戸時代に飢饉が頻発したのは天候のせいばかりではなく、食糧生産が人口の急増に追いつかなかったためと考えられる。そして近代の人口急増は食料輸入によって凌いだのである。

 そして50年後に日本の人口は約半分になり100年後にはさらに減って明治維新の頃にに近くなる。これは日本政府による予想である。政治的理由で甘めの数字にしているはずなので、おそらく実際はこれより早く減少すると思われる。

 以上の2つの資料、過去の経緯と未来の予測を合成すると以下のようなグラフになる。

 人口の面からだけ見ると日本は20世紀初頭の世界に戻ろうとしていると見える。しかし、その頃には人々は中山間地を含め日本全域に散らばっていた。食糧の自給自足が普通だったので人は生きるためには面積が必要だったからである。将来の社会が自給自足になるとは思えない。従ってほとんどの地域は過疎になり、その中に市街地が点在するようになるだろう。

 養老孟司氏は少子化はシミュレーションできないと言っている。ひょっとしたらそれが正しいかもしれない。内閣府少子化社会白書を出したのは20年も前である。第2章 なぜ少子化が進行しているのか: 子ども・子育て本部 - 内閣府 (cao.go.jp)

 読んでみると中央官僚はさすがに秀才ぞろいだけあって分析は全く正しいと思う。しかし、分析が正しくても有効な対策・政策が打てなかったことは現在の状況が示している。なお、この少子化社会白書では後半の大部分をすでに進行中の政策の紹介に終始している。「ヤッテルゾ ヤッテルゾ」と言いたいのである。


東京一極集中

 人口は急激に減少するのだが、それよりも地方から都市部への人口の移動が顕著になるだろう。今は東京一極集中が進み、東京中心部の再開発、集中投資が続いているので、東京の中心部に住んでいる限り人口の減少は実感されていないと思われる。日本政府が少子化問題に対し、相変わらず補助金バラマキしかアイデアが無く、イマイチ本気ではないように見えるのは、この理由によると思われる。

 私の予想では東京一極集中もオリンピックをピークに流れが変わり、不動産価格の下落が始まるはずだった。この予想は完全に外れた。相変わらず東京はマンション価格の高騰に象徴される再開発の嵐が続いている。しかし、大阪万博などという時代錯誤のイベントが失敗し、これをきっかけに2025年から日本のバブル崩壊が始まると私は懲りずに予想している。 

 地方に中枢都市を設けることで東京一極集中はある程度抑えられるはずだ。1987年に策定された第四次全国総合開発計画で「札幌市」「仙台市」「広島市」「福岡市・北九州市」の五つの都市が中枢都市に指定された。日本人は歴史的に選択と集中が下手である。例えば仙台を中枢都市に育てるということは、盛岡や秋田は投資の優先度を下げるということだ。しかし、盛岡や秋田を地盤とする政治家たちはそんなことは許さず全力で投資を引いて来ようとするだろう。結局 限られた原資を多数の都市が奪い合い分け合うことにしかならず、中途半端なサイズの都市が乱立することになる。なお、中枢都市という言葉を作り出した第四次全国総合開発計画は失敗したと総括されているようである。中枢都市などという言葉は誰も覚えていない。地方の政治家は日本全体のためには選択と集中が必要であることは理解はしても実行することはないだろう。

 結局 このままでは東京一極集中は止まらない。

 地方の風景

 農業は食料を生産する産業である。産業は利潤を追求ことが目的なので「見映え」の優先度は低い。何もわざと汚くする必要はないのだが、特に水田の風景は大きく変わるかもしれない。農薬や肥料の処理に大型トラクターを使うと方向転換するところで稲を踏み潰すことになる。水稲の畝をきれいにそろえる必要もない。特に直播栽培では生育がバラバラになる。要するに美しい農村風景は過去の遺物となる可能性が高い。棚田のような栽培形態は労力がかかりすぎるので、産業ではなく文化財として維持しないと消滅するだろう。人口が少なくなれば必要な食料の量も減少する。従って、わざわざ作りにくいところで農業を行う必要はない。作りやすい所で集中的に農業がおこなわれるはずで、中山間の傾斜地は放棄されるだろう。大山千枚田/鴨川市/千葉県公式観光情報サイト-まるごとe! ちば-

 (この写真はインターネット「まるごとe!ちば」より採取した鴨川市大山千枚田

 地方は過疎化し少数の地方都市を除いて空き家と耕作放棄地ばかりの風景になるだろう。

 2021年の日本の人口は1.2億人、その中で農業人口は130万人。つまり、農業人口は既に約1%しかない。国内総生産では農業は0.79%。これで見ると農業人口はもっと減少しても良いし減少して農家の規模を拡大した方が良いだろう。しかし、農水省も全農も農家に対して農業をやめて農業法人に耕地を集約しなさいなどと言えないでしょう。やはり「経済の見えざる手」が頼りなのである。

 2100年には耕作放棄地や放棄された住宅地が広がる中で農業法人がAIロボットを使って耕作している農地が点在しているというのが私の空想である。