2100年 夏

日本の農業の将来について妄想を膨らませてみました

第4回 ノマド カントリークラブ

 ゴルフ場跡地での放牧

 日本は山間地、傾斜地の多い国であり、農耕地に使える土地が少ない。諸外国の場合は山間地は牧畜に使うのであろうが、日本は雨量が多く樹林化してしまうので放牧がしにくい。一方 日本には2500か所以上のゴルフ場がある。ゴルフというスポーツが無くなるとは思わないが、2500か所はいくらなんでも多すぎる。そこで閉鎖・放棄されたゴルフ場を活用する方法が模索された。(写真はインターネットから採取)これは格安】土日が3,300円!関東の安いゴルフ場ランキング ...

 牧畜に適したゴルフ場はそれほど多くない。畜産は糞尿の処理が必要で、そこから出る悪臭は避けられない。従って市街地から遠いことが必要条件。また、18ホールではなく36とか72ホールを持つ規模の大きなコースが望ましい。(写真はインターネットから採取) さくら牧場

 繁茂君のレンタカーは山中のスカイラインに入った。スカイラインとはいい名前を付けたものだが、実際はヘアピンカーブの連続である。そこを自動運転の車は電気の節約のためスピードを抑えて走る。加速と減速を最小限にするため乗りごこちは良い。

 豪勢な門をくぐるとゲストハウスがある。今は1階は牛小屋、2階が事務所になっている。廃業したゴルフ場の大部分はメガソーラーにするか何もしないかで終わっていた。ゴルフ場を牧畜に転用したコースはまだ全国に3か所しかなく、それらはまだ採算ベースに乗っていない。その可否は生産される肉の質にかかっていた。

(写真はインターネットから採取。なお、右側の写真はマザー牧場

 茶臼山ゴルフ倶楽部 ブナの嶺コースの予約と周辺のゴルフ場 ... 自然豊かな「マザー牧場」で秋の休日を楽しむ♡ | 華組 松ヶ崎由紀子のブログ | 華組ブログ | Web eclat 

 繁茂君の電気自動車は事務所(元ゲストハウス)に近づいた。ここでもカイダが近寄ってくる。農業用よりも体が一回り大きく、しかもスタンガンを持っているので車から降りるのは危険だ。職員の指示を待つ。

 職員はここでも外国人が多い。欧米系の白人が馬に乗って現れたのには驚いた。10人の従業員がいるが、みんな人種が違う。それぞれ家畜の種類と牧草・草地管理で担当分けしている。エリアつまりホールごとにも担当を決めていて、例えばA氏は羊と5-6番ホールの担当となっている。

 家畜は人になついてくる。しかし、ペットでは無いので出荷する時が来る。単純な収穫の喜びとは違う。畜産は独特のメンタリティーが必要で、農耕民族である日本人より牧畜民族に合っているかもしれない。

 畜産の最大の問題点は休みが取れないことだと思う。農業は農繁期と農閑期があるので集中的に働き集中的に休むことができる。動物は食事も排泄も休んでくれない。一つの家族で畜産業を行うと一生家族旅行には行けないことになる。しかし、2~3家族が共同すれば交代で休むことができる。実際に2020年代でも畜産業には農業法人が多い。

 日本の気候風土に合う放牧

  イギリスでは家畜を放しておくだけで草原ができる。日本は雨が多く湿度が高いので放牧だけでは安定した放牧地はできないだろう。

 ここで飼育している家畜は牛、豚、羊、3種類。それらに牧草栽培を組み合わせホールごとにローテーションする。家畜だけを集中的に飼うと排水が富栄養化して公害問題になりかねない。一つのホールを例にとると、まず秋~冬に麦を蒔く。ゴルフコースは芝生用除草剤の何年も使用してきたので初めのうちはイネ科作物しか作れない。まだ麦が柔らかいうちに羊を入れる。羊は麦畑を草原のようにしてしまう。次に豚を入れると豚は土をほじくり返して泥田にする。羊と豚の糞尿で富栄養化した土地にトウモロコシを植える。トウモロコシは家畜の飼料とする。そのあとに牛を放牧し、翌春に再度豚を投入し掘り起こさせた後にマメ科牧草のアルファルファを植え、そこに牛又は羊を投入するといった具合だ。(このローテーションは実施できているわけではありません。単なるアイデアです。試行錯誤が必要と思います。)放牧と言っても労力がかかる。放牧と放置は違うのである。

(写真はインターネットから採取した放牧豚)

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 ここで飼育した家畜は運動量が多いので脂肪分が少ない。これまで日本人が好んできた霜降りではなく、タンパク質に富んだ赤肉である。特に豚肉は豚小屋で育てたものよりも良質である。この肉質の評価に成功の可否がかかっている。

 また、家畜の移動をスムーズに行う方法も改良の余地がある。ここでもAIロボットのカイダが活躍する。畜産用のカイダは農業用よりも体が大きく動きも早く設計されていた。それでも家畜の誘導にはロボットより犬の方が優れている。そこで犬とカイダがチームを組みカイダは牧童の役割になり犬を使って家畜を誘導する。ゴルフ場はホールからホールへ移動するためのカート道が設置されている。これが家畜の道になるのだが全ホールをスムーズに回るようにできているので畜舎との行き来にはショートカットしなければならないことが多い。

  カイダが1台 泥にはまってしまった。すぐに2台のカイダが集まってきて脱出させた。AIはその程度の判断はできるようになっていた。

 野生動物との闘い

 最大の問題はここでも猪、猿、熊など野生の動物の侵入である。コストはかかるがゴルフ場時代に張り巡らした電気柵を補修して活用していた。これが破られた場合はカイダと犬が対抗する。そのためここのカイダはスタンガンを装備していた。しかし、牛は集団になるとそこそこの戦闘力があるし、豚も先祖が猪であるだけにそれなりに強いので野生動物も用心して近づいてくる頻度は少ない。日本には狼のような大型肉食獣がいないので助かっている。ここは本州なのでヒグマがいないことも大きい。

 ここでもマイクロパワープラントで太陽光、風力、水力をフル活用。

 ゲストハウスに近い18番ホールは南向き斜面だったので全面メガソーラーにして牧場のエネルギーの大部分をまかなっていた。地面を羊に除草させるためにここのメガソーラーは通常よりも背が高い。また、風の通り道にあたるところには風力、かってはウォーターハザードだった池からの水路には水力の発電所があり、これらはカイダの充電用にしていた。

 

 草地からの毒草の除去

 毒をもつ植物は数多い。草が生えるのを自然に任せると家畜が毒草を食べないので毒草ばかりになってしまう。奈良公園アセビの林になってしまったのと同じ理屈だ。従って耕起を豚だけに任せるわけにいかず、定期的に機械力で掘り起こして雑草を根絶して牧草を蒔かなければならない。自然に任せると全てうまく行くわけではない。

 この写真はギシギシと言う名前の雑草である。特に強い毒があるわけではないがシュウ酸を含んでいるので家畜の健康には良くない。この植物の種は家畜の消化器官を通過しても死なずかえって発芽率が良くなる。牧草地に家畜を放しておくとやがてギシギシの草原になってしまうことがある。この雑草は多年生で根部が生き残ると再発する。従って除草剤をスポット散布して根絶する必要がある。ここでカイダが活躍する。ギシギシをねらって除草剤を噴霧するのだ。土壌に残らない除草剤を使えば耕起後に牧草を蒔くことができる。これが繁茂氏の商売のタネである。この農場は農薬も肥料も使ってくれないのでこの除草剤しか売るものが無い。

畑の雑草図鑑〜ギシギシ編〜【畑は小さな大自然vol.37 ...

 林地の活用

 ゴルフ場の利点は場内に森林もあることである。温暖化によって家畜にとっても日除けが必要になる。海外では家畜による森林の破壊が問題になっているようである。日本では雨が多くて雑草の発生が旺盛なので下草が無くなって砂漠化するとは思えないが、家畜の数は適正に抑えるべきだろう。ここでは家畜をホールごとに移動させ、森林や草地を適度に休ませる工夫をしている。贅沢な土地の使い方であるが、このようにしないと持続可能にはならない。規模が必要なのだ。(この写真はインターネットから採取しました。なお、日本ではありません)

 黒牛の Kebler パス、コロラド州の林床における放牧します。 の写真素材・画像素材. Image 14377337. 黒牛の Kebler パス、コロラド州の林床における放牧します。 の写真素材・画像素材. Image 14377337.

 牛、豚及び一部の羊にはマイクロチップが埋め込まれていて位置を特定できるようになっている。そうでもしないと少人数で多数の動物の管理はできない。なお、羊は群れを作るので全部の羊にチップを埋め込む必要はない。Stray Sheepは実際にはほとんど出ない。カイダはこのチップからの電波を基に家畜を追跡することができる。

気候が温暖化しても多分砂漠にはならない日本の幸せ

 世界の中には温暖化によって砂漠化する地域がある。例えばオーストラリア。元々 この国は実際は三日月形をしていると言われていた。つまり、内陸部は乾燥しすぎていて人はとても住めないので西と東の海に近い部分しか国土は無いと思った方がいい。しかし、その三日月がだんだん細くなっている。中国も黄土高原の緑化はいろいろ試みられてきたが結局砂漠化して日本にまで黄砂をまき散らすことになった。日本は豪雨と干害が繰り返されるだろうが砂漠化はしないだろう。この豪雨をうまく溜め込むことが必要だが、ダムよりも森林の保護が重要だろう。かっては森林は木材の生産地とみなされてきたが、今後は水と空気を浄化するところとみなされるべきである。しかし、林野庁は相変わらず森の木を切り続けている。一方、環境保護団体は森の下草を除去して里山を再現しようとしているが、水と空気を浄化する機能を最大化するのは美しい里山でなくても良い。産業としての農業あるいは畜産は美観とは相容れない場合がある。

 放牧地とするならゴルフ場跡地が雑木林に遷移する前にとりかからねば

 日本の気象条件下では雑木林が最も安定な状態である。つまりゴルフ場は放置すれば最終的に雑木林になる。この写真は閉鎖して10年後のゴルフ場の光景だが、まだ山林にはなっていない。時間がたって普通の山林になると開墾作業が大変になるだろう。それほど時間の余裕はない。(写真はインターネットより採取)

川西市】川西ゴルフクラブ跡から一の鳥居駅へ | 路面と勾配 川西市】川西ゴルフクラブ跡から一の鳥居駅へ | 路面と勾配

 繁茂君の電気自動車はまたスカイラインと称するクネクネ道を降りて行った。下り坂はほとんど発電だけなので気が楽だ。繁茂君としては大きなビジネスではなく、失敗するリスクもあるので、頻繁に訪問することはないだろう。しかし、過去には無い、新しい日本の風景が出現する期待はあった。